フランス国立図書館(BNF)のデジタル書庫"Gallica"で見つけた百年前の月刊誌「ジュセトゥ」(Je sais tout=私はすべてを知る、という意味)や新聞「フィガロ」(Figaro)等から記事や画像を紹介。(現在1910年で進行中)


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「卯月の魚」~『日本小話集』より

「卯月の魚」~『日本小話集』よりf0028703_185297.jpg

ガストン・セルフベール作
フェリクス・ウダール画

 肥前の国に住む美しい娘八代(やつしろ)は寂しげな物思いにふけっていた。その黒い瞳は中空をただよい、とりとめもなくその先の見知らぬ山や川を見つめていた。そのかわいそうな娘が常に追い求めているのは、許婚の若い漁師皐月(さつき)の五月の太陽のように輝かしく愛しい面影であった。海が、貪欲な海が彼をさらってからもはや三ヶ月が過ぎていた。勇敢な漁師である彼がかくも長い間どうして姿を現わさないのだろうか?美味で高価な海鼠や鱈を追い求めた末にいかなる野蛮な国に引き込まれたのであろうか?
 父親の粗野な声が彼女を瞑想から引き戻した。
「ぼんやりして何をしているのだ?夕餉の前までに河岸に洗濯に行って乾さねばならぬというのに。」
 あぁ!甘い夢を見るのは止そう!愛しきものが亡くなった時でも生きなければならないのかしら?
 八代は青々とした河岸にやってきた。だが彼女の思いは再びさまよい始めた。目は涙であふれ、手元の仕事が見えなくなった。そして彼女の想念は河の波のように小舟の縁に寄せ、引いてはいずことも戻らぬように遠ざかった。
「いとしい皐月さま、どこにおられるの?たくましい腕と頑丈な胸板であるからにはあらゆる危難を克服できるでしょうに。こうした偉丈夫の船が突風や座礁に遭って人知れず死んでしまうことなどありえないわ。あぁ!いや、彼はきっと戻ってくるわ。」
f0028703_1862642.jpg
 するとその時、一匹の見知らぬ巨大な魚が娘の目の前に現われ、大きな目で彼女を見つめたのだ。それはあたかも話をしたいのだが話せないという様子に見えた。その眼差しは八代にはその魚がおそらく遠くからやって来て、帰りを待つ人の消息を持ってきたかのように思えた。
 魚は優雅に泳ぎ回り、再び娘のところに戻ってきて優しく寂しげな目でじっと見つめた。
「あぁ、お魚さん、話してちょうだい。あなたは皐月の化身なの?それとも海で彼を見かけたの?彼は獲物満載の船にいるの?それとも海の底で眠っているの?私は希望を失って泣いてしまうわ。お願いだから、あの人の吉報を教えてちょうだい!」
 しかし不幸なことに、魚は再び水中にもぐり、小舟の反対側の左舷に現われ、もう一度彼女を見つめたあと去っていった。不吉な兆候だった。皐月は死んだのだ!

八代は急いで河岸に戻った。彼女は裸足で髪と着物を振り乱し、嗚咽しながら家まで走った。その道筋では女たちが藁葺きの小屋から出てきて憐憫の眼差しで彼女を見送った。
「あれは真珠のように美しい八代ではないか!あんなに泣いて、きっと許婚が死んでしまったのに違いない。」
 かわいそうな娘は、頭は空っぽで狂人のように走り続けた。彼女の涙をぬぐってくれるのは母親だけで、これからは一緒に亡き人のことを語り合うことになるのだろう。

 ところが、家の門前の満開の桃花の下で父親と一緒に待っていたのは若い漁師だった。
「あなたなの、皐月さま!」と八代は叫んで、半ば卒倒しながら彼の腕の中に倒れこんだ。「あなただわ!あなたが戻ってきたのだから、つまり性悪の卯月の魚《魚髄》(うおづひ)が私をかついだのよ!あぁ、あなた、もう離れないでちょうだいな。海に騙されるのはわかるでしょ?引っかかった人は猜疑心とか出鱈目しか持てなくなるの!」
(終)

原題: Poisson d'Avril
短編集『日本小話集』"Contes Japonais" 所収 (1893年刊)
作者: ガストン・セルフベール Gaston Cerfberr, Auteur
試訳: 写原祐二(2010年3月31日)©Yuji Utsushihara
挿絵: フェリクス・ウダール Félix Oudart, Illustrateur
出版: Jouvet &Cie, Editeurs, Paris
[PR]
by utsushihara | 2010-03-31 18:07